[おわりに]

 本稿のテーマに照らし合わせて、労農赤軍軍装研究のバイブルともなっているハリトーノフの本の問題点を指摘しておきたい。

・1936年の兵科徽章の中に騎兵のものが存在しないことに言及していないこと。
・1940年11月の歩兵(射撃兵)の兵科徽章の制定について言及していないこと。
・騎兵の兵科徽章をイラスト57に描いてしまっていること。
・1940年7月の政治委員への兵科徽章の採用を指摘していないこと。
・イラスト53の高級指揮官フレンチ型上衣の襟章が誤ってダイヤ形になっていること(平行四辺形が正しい)。

 他にも不備はあると思うが、これぐらいの指摘に止めておきたい。ところで、この本では、本文の内容よりもイラストに問題点があることが多いのがと くに残念である。というのは、日本では、軍装コレクターの大半がイラストや写真だけを眺めて文章をじっくり読まない傾向が強いからである。この本の功罪を 考えると、基本文献としての利用価値の高さの点では素晴しい本である。しかし、ソ連の歴史再現映画の政治委員が兵科徽章を付けていないことが、当時の写真 などの研究による現実の反映ではなく、この本に基づいていたとするとその罪は大きいといえるだろう。

 最後に、映画や再現写真は、衛生兵の襟章を暗緑色の地に赤色のパイピングにしているが、規定上は違う場合もありうることが示唆されている。例え ば、後方勤務の医療部隊から歩兵分隊に派遣されたのではなく、歩兵分隊内の衛生兵がいる場合はどのような襟章を付けていたのか、などというような「連隊や 大隊よりも小さい部隊や個人の兵科徽章着用の実例」は大きなテーマとなるだろうが、これは後の課題としたい。

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