1939年
ハルハ河にて
捕獲した九四式軽装甲車の上に立つ
歩兵科大尉


 1939年のノモンハン事件をテーマに制作したビネットです。

 今回、興味も知識も欠如していた時代のフィギュア制作に取りかかったのには訳があり、参加を希望していた「ホビーショップ元気堂」(府中市)の第11回元気堂AFVコンテストが、「日の丸」というテーマで開催された事に起因します。もっともテーマ的にはギリギリだなぁ・・・という作品に仕上がっておりますが。

 前述した様に、この時代の軍装に関してはサッパリで、同志の方々による援助を多分に頂きました。深く感謝致します。
 ともかく、自分の中の活動指針というか、課題のうち
 ・模型店のコンペに参加し、地域の模型文化興隆に貢献する
 ・土台/大道具としてのAFV模型(オマケはフィギュアではなくAFVという方法論)に取り組む
という二つをクリア出来た事にホッとしております。
 それと今まで興味の無かった時代の物にも目を向けるきっかけに成ったのは、良かった・・・のかな?
 

(写真と文章/赤いお母さん)

V.ヴェノーフ同志による軍装解説

 製作者である赤いお母さん同志が「赤軍時代の軍装がよくわからない」というので
、軍装解説を丸投げされてしまいました。したがって、簡単に解説してみます。赤い
お母さん同志は製作に際して原則的に手元にある実物資料を参考に、また、たとえ手
元になくても本人が関心を持っているものを対象に製作してきましたが、今回は資料
も関心もない対象を製作したがゆえの面白さが作例に内在しています。


 作例の設定は1939年の「ノモンハン事件(ハルヒン・ゴール河畔の戦闘)」に
おける歩兵大尉です。1939年の夏というのが時代設定ですから、軍装はいわゆる
「1935年型」ということになります。それでは上から下へ。

1936年型ヘルメット(СШ−36):
 現在、ロシアの軍装愛好家から「ハルヒンゴールカ」と呼ばれるぐらい当時の写真
で見受けられるヘルメットです。全体の塗装は暗い保護色(暗いカーキ色)です。当
時は正面に赤星が描かれることが多いのですが、ノモンハン事件当時の写真では作例
のように赤星のないものも確認できます。また、アメーバ迷彩布のカバーを被せたり
、偽装網を被せ、さらに草などでカモフラージュが施してある事例も見受けられます
。チンストラップをヘルメットの眼庇部に掛けたスタイルもノモンハンではよく見ら
れる着用法でしたし、また戦場ではチンストラップは顎の下で緩めに締めることが通
例だったようです。というのは、きつく締めて頭に固定すると砲撃の爆風や破片の衝
撃で首の骨が折れることがあるからです。

1935年型木綿製折襟ギムナスチョールカおよび乗馬ズボン:
 カーキ色の1935年型ギムナスチョールカの将校用木綿製は原則的に襟の周囲と
袖口上部に兵科色のパイピングが施されていました。また乗馬ズボンは原則的には暗
青色で側面にも兵科色のパイピングが施されたものでした。しかし、ノモンハンでの
写真を見ると、佐官以上を中心に、戦場から遠い将校はパイピング付を着用していま
した(乗馬ズボンもカーキ色に兵科色パイピング)が、戦場にいた下級の将校の多く
はパイピングなしで、肘当てと膝当ての付いた兵用を着用していたようです。
 また、当時の写真では、肘当てと膝当てがなく、胸ポケットも袋状に膨らんでいる
というように、裁断上は将校用であるのにパイピングが付かないものも見受けられま
す。作例はこれを再現したものと思われます。

1935年型階級章:
 1935年型の将校用襟階級章は長さ約100ミリ、幅32・5ミリの方形で、兵
科色の地の周囲に約4ミリ幅の金線が施されていました。作例は歩兵大尉ですので、
「キイチゴ色[Малиновый](旧日本軍は「紅色」と表記)」の地に「赤色
七宝に金縁の長方形の階級章[Шпала](枕木から転じた呼称)」が1個になり
ます。当時の歩兵には兵科章がありません。
 1935年型袖階級章はV字形で、幅と本数、金線などによって階級を識別するも
のでした。作例の大尉の場合は、縦幅15ミリ・横幅85ミリの「鮮紅色[Алый
](鮮やかな赤色)」のV字形ラシャ線が1本、両腕の袖口上部から70ミリの位置
に袖章の下端がくるように縫い付けられました。
 ということで、作例は袖章が太すぎるかなという気がします。

1935年型将校用通常軍装ベルトセット:
 このベルトは全ての金具が真鍮製で、周囲を残して星形に打抜かれたバックルは、
星の中央に鎚鎌の意匠を持ち、長さの調節はバックルの「爪」ではなく、「鼓ボタン
[Кнопка]」をベルトの6個の穴のいずれかに通して行うというものでした。右
肩から下げられたショルダーストラップは1本で、ベルトに縫い込まれたDリングに
通して連結されました。「遊環革[Поясная муфта]」
は2つのDリングの間にあるのが原則のようです。

トカレフ(TT−30/TT−33)拳銃用ホルスター:
 作例では、ICMやミニアートのキットに入っているものをそのまま利用していま
す。これは一般的な形のようで、「1935年型将校用常装ベルトセット」対応とす
るなら、上部のベルト通しを切り取り、ベルトに重なるように付けると良かったかも
しれません。またはベルトとの色の違いに説得力を与えるために「1932年型将校
行軍軍装ベルトセット」対応のものとするなら、ベルト通し上部にDリングを付加す
るとよかったかもしれません。クリーニングロッドの留革がクリーニングロッドの先
端が露出してしまうものとなっていますが、当時でもこのような形のものもあるよう
なのでそのままでもよいですが、先を包むような形状に改造するのもよかったかもし
れません。当時のクリーニングロッドの色は真鍮色とした方が無難なようです。クリ
ーニングロッドが留められないものもあったので、削り取ってしまうというのも一つ
の解決法だったかもしれません。

長靴:
 クローム革や柔軟な革製で背の高い将校用ではなく、背の低い兵用に近いものを穿
用しているようです。ただし、光沢から判断すると「キルザ」製ではなく革製を再現
しているようです。ノモンハンの戦場は、昼間は酷暑、夜は厳寒という環境で、蚊な
どの昆虫だけでなく、草原のネズミなどにも苦しめられ、革質の良い将校の長靴はネ
ズミの格好の攻撃対象だったと言われています。

模型解説

 アランゲルのフィギュアをベースにエポキシパテ(タミヤの速硬タイプと高密度タイプを併用)を使い改造しました。
 腕はキット内の別のフィギュアと取り替えて在ります。ヘルメットはTANKから出ている別売りパーツを使用し、チンストラップは厚めの上質紙を用いています。
 今回、イエローサブマリーンから出ている0.14mm厚のプラペーパーを使用しました。階級章や袖章、ベルトの追加などに多用しました。なかなか便利ですね。気を付けないと接着剤で溶けてしまいますが。

 詰立襟の1943年型服を、折襟に変える以外さしたる改造をする必要も無いな・・・と軽く始めた制作でしたが、そんな甘い事もなく、結局シルエットが変わる程いじってしまいました。というのも、1935年型服は43年型よりも裾が長く、この修正をしてやると、元々細めだったキットの乗馬ズボンがより細く見えてしまい、結局下半身全てをいじってやる羽目になりました。
 アランゲルのキットは、ミニアートと同じ原型師が作っていると思われますが、金型がミニアートより良く、良好です。一方、TANKの36年型ヘルメットは、特徴を掴みきれておらず、今ひとつの出来でした。


 実は今回、ICMのキットを用いてビネットを作る企画だったのですが、実際組んでみると余りにもあんまりなスタイルだったので、急遽アランゲルのキットを改造して挑みました。
 ランナーにくっついている状態では、なかなかよさそうだったのですが、実際に仮組してみると、パッケージとは似てもにつかぬずんぐりとしたシルエット・・・。一時は本気で「これは視察するチョイバルサンを作れという神の啓示か!?」とも思いましたが、考え直して良かったと思います。
 ベースとした九四式軽装甲車はファインモールドのキットを素組。放棄された車体を再現する為、機関銃だけ取り外してあります。
 非常に組み立てやすい良いキットでした。エッチングパーツが無ければ満点です。
 フィギュアと装甲車の接着は、真鍮線を通して仮留めし、シーナリーボンドで点留めしてあります。頑強ではありませんが、在る程度の強度を保て、後にフィギュアを外したいと思った時に、水でボンドを溶かして外せる様にする為です。


塗装解説

 塗装はタミヤ、シタデル、ヴァレホの水性アクリルカラーを用い、最期にパステルで仕上げてあります。

 塗料は総じて顔料(一部染料)/膠(クリアー成分)/溶剤で構成されていますが、タミヤのアクリルカラーは、欧州の水性アクリルカラーと比べると、クリアー成分が少なく、溶剤が強力である様に思われます。(逆にシタデルカラーは、クリアー成分が多い)。
 故に、サラッとしていて塗りやすく、乾燥も早く、ガッシュの様な艶消しになってくれるのが魅力的です。反面、下地の塗装面を溶かしてしまったり、粉を吹いた様に筆ムラが立体的に残るのが難点です。
 総じて下地塗装には最適ですが、仕上げにはいささか使えそうもありません。


 ・・・しかし前回のコンペでもそうでしたが、締め切りがあると少々作りが雑に成ってしまいますね・・・致し方ない事ですが、反省。

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