1956年11月
ブダペシュトにおける
第2親衛機械化師団の戦車兵


 ブダペシュトにおける第2親衛機械化師団の戦車兵(Экипаж 2‐й гвардейской механизированной дивизии в Будапеште)、ハンガリー、1956年11月初旬。


 このフィギュアの状況設定は、1956年のハンガリー動乱(ハンガリー革命)の反政府暴動鎮圧のために主としてブダペシュト北東部に送り込まれた第2親衛機械化師団のT34/85に乗り組む戦車兵をイメージしました。

(写真と文章/ワレンチン・ヴェノーフ)

 設定に基づいて、この戦車兵のフィギュアは、1950年代半ばの無線送受信装置内蔵の冬用戦車帽、立襟ギムナスチョールカ、戦車つなぎ、下士官兵用長靴、下士官兵用ベルト、トカレフ拳銃用ホルスターを着用しています。



1950年代半ば頃に用いられた冬用戦車帽:

 この当時のものは、正面の額に大きなパッドが1つ、上部にパッドが縦に3本、両側面が2本ずつあります。両側面のパッドの1つは、後世代のものとは若干位置が異なり、あたかも正面のパッドと連続するかのような配置になっています。

 無線受信装置を内蔵した耳垂れには、冬用の場合、羊毛皮の内張りがあります。また後背部にも「垂れ」があります(作例では畳み上げた状態にしてあります)が、これには毛皮の内張りはありません。
 作例では耳垂れを開放した状態にしていますが、閉じる場合には、右耳垂れ下部のボタンに左耳垂れ先端下部のストラップを留め、左耳垂れ側面の3個のホックのいずれかに右耳垂れ先端のストラップの鍵ホックを留めることでサイズを微調整できるようになっています。
 頭頂部と後背部にサイズ調節用のストラップがありますが、後世代のものと異なり、後背部の「垂れ」で覆われることなく、後背部のストラップが露出しています。

 また戦車帽の左後背部から下がる送受信用のゴム皮膜されたコードと襟元の送信用の喉マイクの革製ストラップは伸ばしランナーとプラペーパーで再現しました。
 コードの先端には鈍い銀色のプラグがあります。
 革製ストラップにはマイクを喉に密着させるための金属製のスライド式締具があります。

 この戦車帽は「黒色」なのですが、褪色するとやや青みがかった茶灰色が強くなっていくようなので、そのように塗装してみました。また、ストラップ類の金具は黒色の焼付塗装あるいは黒染め仕上げを施されているので、塗装が剥げていることもなく、模型での再現としては難しいのですが、目立たさせるために安易に銀色などにするのではなく、黒のトーンを変えるだけという控えめな表現を心がけました。ただ、喉マイクの金具は、頻繁に使用されているためか、一部に剥げた真鍮の地肌が見えます。


・1936年型夏季戦車帽作例
・現用冬季戦車帽(4本筋パッド)作例
・現用冬季戦車帽(6本筋パッド)作例


立襟ギムナスチョールカ:

 作例では襟元しか見えませんので、考察の必要はないのですが、おそらく胸ポケットのついた1949年型を着用していると思われます。
 当時の写真を見ると、生地はかなり暗い色のようで、戦車つなぎと同じような明度で写っているので、暗緑褐色に塗装しました。写真や現存資料から判断すると、概して1950年代の「保護色」は暗い色調だったようです。全体的に暗い色合いの服装の中では金色ボタンと襟の上部に縫い付けられた襟布の上端が白っぽく見えるのがアクセントになっているように思います。


戦車つなぎ:

 戦後の戦車つなぎは「黒色」と表現されていますが、実際には極度の暗青色のようで、当時のカラー写真でも戦車帽よりも青っぽく写っているので、やや青みがかった黒色を基調とし、褪色して青紫色が強くなった感じと各種の油や埃などが付着してかなり汚くなった感じを再現してみました。
 ブダペシュトの11月初旬は雪が舞うほどの気温なので、中に防寒着を着用していたと思われ、当時の写真では少し着膨れしているのがわかります。使用したキットも着膨れした感じが出ていましたので、そのままで利用しました。
 ただ、ポケットに関しては、若干、当時の物はキットと異なっているので、少しだけ手を加えました。まず左胸ポケットは蓋付きとし、つなぎと同色のボタンを追加し、さらに右腰部のポケットも少し大型化します。
 作例では下士官兵用ベルトで隠れてしまっていますが、つなぎの正面胴部には締めストラップがあり、そのアルミ製バックルの一部を見せることで、その存在をアピールしました。


下士官兵用ベルト:

 1950年代はバックル裏のフックの位置が、着用した際に、左から右へと変化(したがって、遊環革の位置が右から左へ変化)する過渡期で、1952年から1957年にかけては両者がともに生産されている状況だったそうです。
 また真鍮以外にもニッケルメッキや亜鉛メッキの鉄製のバックルもありましたし、一般兵は原則的に布製のベルトでした。
 作例は、当時の写真に基づき、主として下士官を中心とした古参兵が用いていた真鍮バックル付きの革製ベルトで、新たに出現した左側に遊環革があるものを再現しました。


トカレフ拳銃のホルスター:

 吊り下げ式ループでベルトに固定する形式で、クリーニングロッドの収納部(クリーニングロッドの先端が露出しない)を見る限り、大戦中とほとんど変わりがないようです。
 ホルスターの蓋を留める鼓ボタンは真鍮製なので、くすんだ黄土色としました。
 拳銃の紛失を予防するランヤードは、当時の写真から判断すると茶革製で、各種の金属部分はニッケルメッキのようなので銀色で再現しています。



  使用しているインジェクションキットは1:35のMiniArt社のSOVIET TANK AMMO-LOADING CREW(35034)で、Dの上半身と両腕、Aの頭と下半身を利用し、設定に合わせて少しだけ改造しています。また、両手はHISTOREX社のレジン製手足セット(No 30372)のものを用いました。改造方法などは以前に投稿した作品を参照してください。

 キットの内包品(ランナーも含む)以外に製作に用いたものは接着剤とプラペーパーとタミヤパテとマスキングテープです。台座はアンドレアのものを用いています。台座の地面もタミヤパテで造形してあります。塗装はフィギュアも地面もすべてアクリルガッシュで行っています。


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