1975年
シベリア軍管区冬季野外演習における
自動車化射撃部隊小隊長


 ヴァーリンデン社製「Soviet APC Crewman」のキットを制作しました。
 キット自体がオスプレイ社エリートシリーズ12『Insaide the Soviet Army Today』のイラストを参考に作られている為、そのイラストの元となったp.50の写真を設定の下敷きとして制作しました。
 なお、この写真では1975年2月シベリア軍管区冬季野外演習におけるBMP-1装備の自動車化射撃小隊長Vitaly Akulov中尉とまで特定が出来るのですが、キットの顔もポーズも違うので個人の再現とはしませんでした。また写真には写っているマカロフ用ホルスターを再現しませんでしたので、特定の日付にはしませんでした(後述)。


(写真と文章/赤いお母さん)


・詳細解説(軍装考察を中心に)


 冬季野外演習の合間に、安煙草で一服する新米の自動車化狙撃小隊長(中尉:лейтенант)。
 軍装は73年規定に基づく、将校用冬季野外軍装です。


 1964年型冬季ТШ-3戦車帽:
 通常は将校用防寒帽を身につける所ですが、兵員輸送車に搭乗して指揮を執っているのでしょう、冬季ТШ-3戦車帽を身につけています。
 1964年型マイク付戦車帽ТШ-3は、パッドが4筋で、喉マイクと通信用ヘッドホン、プラグコードが付くようになります。80年代途中から、パッドが6筋でヘッドホンが大きなタイプであるТШ-4が現れます。おそらく搭載無線機の違いによると思いますが、詳しい事は知りません。冬季用と夏季用は、毛皮の内張が有るか無いかの違いです。
 余談ですが、アフガニスタン派遣隊の哨戒所で、通信用として戦車帽だけが塹壕の傍らに置かれている写真があります。そういう使われ方もされているのは興味深いです。


 外套:
 将校用の常勤・野外外套を身につけています。青っぽいパレード・外出用外套に比べると、チャコールグレーでざっくりとした生地ですが、兵下士官用に比べると良い生地です。
 片側6個ボタンのダブルで、背中にはギャザーが寄せてあり、背中から臀部の辺りにかけて縫い閉じられています。兵下士官用は、フック式で5個の飾りボタンが付いたシングルで、さらにギャザーが縫い閉じられておらず、また縫い閉じる事を禁じられています(キットの製作者は、この違いを認識していない様でした)。作例では再現されていませんが、後ろの裾にスリットがあり、将校用は4個、兵下士官用は3個の小さなボタンが付いています。
 裾は地面から38cm(兵下士官用は32cm)の丈にしなければなりません。
 73年規定では、ボタンはベルトを着用する際には全て留める事に成っていた様ですが、88年規定では、パレードの時以外は第2ボタンまで外す事が許された様です。


 襟章・肩章:
 襟には、金色の自動車化射撃兵科章を打ち付けた、兵団色(ここでは自動車化射撃兵科の赤)の外套用襟章を縫いつけてあります。
 一方、肩にはカーキ色に兵団色のラインが入った縫付式肩章に、金色の階級章(中尉なので平行に並んだ小さな星2個)が打ち付けてあります。


 将校用手袋:
 将校用の茶色い手袋を身につけています。
 特別な都市におけるパレードの際は白い手袋を着用しますが、それ以外の時は、冬季軍装において茶色の将校用手袋を用いる事が規定で決まっています。
 ・・・が、演習の写真等を見ると、将校は防寒用に黒い革手袋を着用しているケースが多い様です。ソ連軍インサイド物の古典であるスヴォーロフの『ソ連軍の素顔』の中で、規定には茶色の手袋をはめる事と書かれているものの、なんとソ連国内で茶色い手袋は売られておらず、東ドイツ勤務の際などに何とか手に入れた茶色の手袋を部隊内で使い回ししていた、という証言が述べられています。これは眉唾物ですし、60年代後半の話ですが、茶色い手袋を余り着用していなかったのは事実の様です。
 うっかりそれを忘れていて、86年型将校用手袋を参考に制作してしまいました。

 常勤・野外用将校ベルト:
 パレード以外ではオールマイティに使われるショルダーストラップ付将校ベルトです。
 作例では再現し切れませんでしたが、ベルト本体にはオレンジの糸で、ステッチが施されています。
 ショルダーストラップは肩章の下を通します。


 将校用マップケース:
 革製(一部人工革)の将校用マップケースです。兵下士官用には戦中型や東ドイツ型と同じ様な形の人工革製マップケースが存在します。


 Г型/67年仕様ガスマスクケース:
 一連の装備の中で、戦車帽とガスマスクケースだけが、将校/兵下士官共通の装備です。
 作例では再現していませんが、腰に巻き付けるストラップが付属しています。右側のサイドポケット(フタ無しの方)脇から延びて、左側のサイドポケット(フタ有りの方)脇に付いているDリングにフックで留める様に成っています。しかしながら多くの写真では、このストラップを使用していません。ポケットに押し込んでしまっているのか、切り取ってしまっているのでしょうか。


 マカロフホルスター:
 再現していません。
 キットに付属していませんでしたし、自作するにしてもランヤードの使用状況が分からなかったので、はしょりました。
 ちなみに上述のVitaly Akulov中尉は身につけていますが、ホルスターを身につけている将校の姿を見かける事は殆どありません。もしかすると個人的な趣味かも知れませんし、1975年2月の演習では着用が指示されたのかも知れません。それ故に、今回の設定では個人や2月という特定は避けました。


 将校用ブーツ:
 パレード時以外に着用する革製長靴型ブーツ。
 兵下士官用とは素材も形状も違う物。
 キットでは正しく表現されています。


・おまけ


 キットではサインペンと地図を持たせるように成っていますが(地図はキットに付属せず)、マップケースを閉じたまま地図を広げて描き込みも無かろう・・・という事で、煙草とマッチを持たせました。

 煙草は長い吸い口の付いたロシア式煙草。先っちょ1/3程しか煙草の葉が入っていません。
 中央画像はヴェノーフ同志から提供頂いたソ連製マッチと、ロシア式煙草の写真。
 マッチの大きさは51ミリ×38ミリ×16ミリ、タバコは手前が「カズビェーク」(長さ92ミリ。直径10ミリ)、
奥は「ベロモルカナール」(長さ82ミリ。直径9ミリ)です。



・改修ポイント



 良くできたキットなのですが、『Inside the Soviet Army Today』の図I-2を元に作られている為に、図の左斜め前から観たアングル部分は良い出来なのに、描かれていない部分は雑ですし、図の間違いをそのままモデリングしています。
 こういった部分を中心に改修しました。

 余りにも色々と手を加えているので、いちいち解説しきれません。
 顔、戦車帽の大部分、胸のストラップ部分、手袋、ブーツ以外は、何らかの修正を施してあります。
 特に外套の下半身部分は、削り込んでシルエットがすっかり変わっていますし、足を少し伸ばした関係で、裾も延長してあります。

 修正には田宮高密度エポキシパテ、Mr.溶きパテ、プラペーパー、真鍮線などを用い、最後にレジンキット用プライマーを吹き付けました。



・塗装

 塗料は全て水性アクリルカラーを用いています。使用したブランドはシタデルカラー(イギリス)を用い、足りない色をヴァレホカラー(スペイン)で補っています。ヴァレホカラーは製造メーカーがシタデルカラーと同じらしく(という事はフランス製)、調合しても問題が無いとの事。

 塗装方法は水性アクリルカラーの基本通りです。下塗り(少し明るめの色で)→暗い部分(ウォッシングして調色→更に影を描き込み)→明るい部分という行程順で行っています。暗部は1色で、明部は1〜2色を、薄めて何度も重ね塗りする事でグラデーションを付けています。
 また各行程は、全ての部位を塗りおえてから、次の行程に移っています。良くAFV系やヒストリカルフィギュア系の塗装解説では、顔は顔、、ブーツはブーツという風に、各部位を最後の行程まで行ってから、次の部位に移っている例が多いのですが、あれは余り良い方法とは思えません。塗料がはみ出したり、うっかり汚してしまった時のリタッチや、全体の色のバランスを取るのが面倒になると思うのですが・・・。油彩を用いた塗装方法の影響でしょうか。
 なお塗料を希釈する際に水を用いていますが、グラデーションなどで薄めに塗料を用いる際には、アクリル絵具の薄液(*01)を混ぜています。

 素材感を出したかったので、ウール製の外套と戦車帽を塗る際には、塗料にベビーパウダー(シッカロール)を混ぜ込んでいます。逆にマップケースなど艶の有る物を塗る際には、アクリル絵具の薄液だけで、塗料を希釈して塗りました。シタデルカラーの黒はセミグロスなので、ブーツなどには丁度良い感じです。

 最後に粉末状にしたパステルをアクリル絵具の薄液で溶いて、ウエザリングを施してあります。


*01:
 私はホルベイン社アクリラ用「ペンチングソルベント」を使用しています。
 成分はエチルアルコールとグリコール類で、混ぜた水の表面張力を押さえるので、「タレ」(ボタッと塗料が流れてしまう現象)や、「ハジキ」、泡立ちが起こりません。ただ余り混ぜすぎると、艶が出てしまいますし、独特の匂いがします。


・ベース

 ベースは東急ハンズで買った素材を組み立てて、水性着色ニスを塗っただけです。
 地面は粉末状の水粘土と紙粘土が1:1で混ぜてある物(誠文社製「ねりっこ」)を、マットメディウム(リキテックス社製)とペインチングソルベント(前述)、シタデルカラーの白の混合液で溶いて、ベースに盛りつけています。マットメディウムを混ぜると黄ばんでしまうので、白のカラーを混ぜました。


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