東トルキスタン共和国軍【新彊民族軍】の下士


 第二次世界大戦末期の1944年、ソ連の援助を受けて、中国新彊省北部のイリ区クルジャにて東トルキスタン共和国が樹立される。1945年4月8日には、各地域のゲリラグループを統合、東トルキスタン共和国軍として民族軍が建軍された。
 その後、東トルキスタン共和国政府は、イリ・タルバハタイ・アルタイの3行政区を解放・統治するが、1949年に中華人民共和国に合流して消滅し、民族軍も人民解放軍野戦第五軍として編入される。
(詳しくは「東トルキスタン共和国民族軍についての備忘録」を参照の事)


 この東トルキスタン共和国の民族軍兵士を、『中国百年軍服(China Regimental 100-Years)』(金城出版社 2005)の図版を主に参考にし、再現した。
 今回は「夏季常勤服(兼戦闘服)を着用する民族軍歩兵科の下士官」を作ってみた。
(2006.10.25.)


追記:
 完成し、記事をアップロードした後に、新事実が判明した為、作品を手直しし、記事も修正しました。
(2006.07.18.)




 民族軍は全面的にソ連の支援を受けた軍隊であり、その軍服もソ連から提供される、ソ連赤軍1943年式軍装が支給された。建軍後、軍服と靴を製造する為に、共和国内の職人を動員する政府決議が出されるが、どこまで自給出来たかは不明。おそらく殆どがソ連製であったと推測される。
 ソ連軍と民族軍との軍装上の差異は、「帽章・肩章・ボタン」だけである。



〈帽子〉
 民族軍の兵下士官には、夏季用軍帽としてピロートカ(пилотка)が支給された。ソ連製のピロートカを支給されているのだろう。

 このピロートカであるが、『中国百年軍服』(p.144)の図版では、兵科色のパイピングが付く様に描かれている。
 しかしながらソ連軍では、兵科色のパイピングが付くのは将校用のピロートカだけで、兵下士官用の物にはパイピングが付く事は無い。かなり悩んだが、図版を尊重して、パイピングの付いたピロートカを再現してみた。
 わざわざ民族軍用の物を製造したとは考えにくかったので、ソ連軍将校用の物を流用していると推測し、ウール製(将校用は全てウール製)ピロートカに民族軍歩兵科の兵科色である赤色のパイピングを付けた状態を再現した・・・

 ・・・が画質の悪い民族軍とされる画像をネットで手に入れたが、どうもパイピングはなさそうだし、木綿製の物を着用している様であった・・・。
 どうも『中国百年軍服』のイラストは「やはり」間違っていた様なので、修正した。(修正前後の図版参照)


〈帽章〉
 帽章は民族軍独自のデザインをしている。

 帽章は数種類あるが、『中国百年軍服』(p.141)によれば、前期と後期でデザインが変わる。
 前期は「稲穂に囲まれた新月」というイスラム的なデザインだが、後期には「赤星の上の新月」を基本に、いくつかのデザインが用いられる。総じて社会主義革命色が強いデザインに変化するのである。

 が、当時の兵士用帽章と思われる画像を見ると、ふくらみのある星型徽章の上に「新月と並んだ星」というデザインが施されている。
 また人民解放軍関連の書籍に掲載されたという民族軍将校の写真では、『中国百年軍服』に掲載されている様な丸型帽章を、確かに着用している。しかし帽章に描かれたデザインは、ぼやけて写っていない。フィルムに写らなかったのか、後に消されたのかは分からないが、もしかするとイスラム的モチーフのデザインが、そこには在ったのかも知れない。

 いつ頃、デザインの変更が行われたかは不明だが、可能性としてはイスラム革命を指向したイリハン・トレ主席粛正後か、新彊連合政府樹立後、更には三区経済委員会時代に成ってからだろうか。
 そもそも『中国百年軍服』の記述の様に、帽章のデザイン変更が行われたかも怪しい。

 ちなみに作例では、前期型をイメージして再現した。1/35で後期型を再現すると、ソ連軍と変わらなく成ってしまうので・・・。

 
修正前(左)  修正後(右)
〈常勤服〉
 前述したとおり、民族軍にはソ連軍1943年式軍装が提供された。よってソ連軍1943年型兵下士官用夏季常勤服を着用させた。

 なお軍服用ボタンは民族軍独自の物で、『中国百年軍服』(p.141)によれば、ボタンには「星の中の新月」という赤軍&緑(イスラム)軍混交風デザインが施された事に成っている。
 が、これも間違いの様で、イリハン・トレ主席のポートレートに写っているボタンは、「星の横の新月」という一般的なイスラムのシンボルがモールドされている。
 更に、同書の図版(p.144)では、金色のボタンが常勤服に付けられているが、同志より提供された写真などを見る限り、常勤服には保護色の物が用いられた様だ。


〈肩章〉
 肩章は基本はソ連式でありながら、民族軍独特のシステムと成っている。

 兵下士官用の常勤用肩章は、保護色の土台に、兵科色のパイピングを付け、階級を表す銀の星を付ける。
 肩章は金色のボタンで肩に留める。基本はソ連式だが、ソ連軍では常勤服用の肩章は、保護色のボタンを用いる点が違っている。

 階級はソ連式のリボンではなく、兵下士官も金属製の星を打ち込む事で表現する。打ち込み方はソ連の将校用と同じで、階級が上がる毎に星が増える。
 星の数は『中国百年軍服』(p.143)によれば、列兵(0)・上等兵(1)・下士(2)・中士(3)・上士(4)。ちなみに作例は、星二つ。


 『中国百年軍服』の図版に従い、肩章の土台は五角形としたが、どうやら六角形をしていた様である。


〈兵下士官用ベルト〉
 特に詳しい記述もなく、ソ連式とした。


〈尉官・兵下士官用長靴〉
 『中国百年軍服』(p.144)によれば、尉官と兵下士官用には、「高筒帆布腰皮靴」すなわちソ連軍兵下士官用長靴のキルザチー(килзачи)が支給された事になる。



模型的解説


 今回はお手軽モデリングです。
 ミニ・アートのアジア顔ヘッドを見て、「これは新彊民族軍だな!」と暖めていた企画です。

 アジア顔のヘッドはミニ・アート社「作業中のソヴィエト戦車兵」から、ボディは「休憩中のソヴィエト戦車兵」から持ってきています。

 意外とアジア顔のヘッドが小さく、一寸バランスが取れていない部分もありますが、致し方ありません。大変素晴らしい造形で、モンゴロイド系のヘッドとしては絶品です。これだけでもキットを買っても惜しくありません。
 世の中、似非独逸人顔(ドイツ人を模しているはずなのに、ドイツ人には見えない顔)ヘッドばかりが蔓延しているので、もう少し人種の特徴を捉えた、特に非欧州人系の出来の良いヘッドが欲しいものです。

 ボディは評判の良いミニ・アートらしく、大胆でメリハリのあるモールドが素晴らしい。このキットは、下半身が太くて、胸板が薄いのが気になったが。

 基本的には素組。
 インジェクションキットの至らぬ部分を補正した以外は、エポキシパテでピロートカを作った位。ヘッドの造形は、頭頂部から後頭部にかけても素晴らしく、本当は帽子を被せたく無かったんです・・・。

 塗装はいつも通り、水性アクリルカラーのシタデルカラーとヴァレホカラー。溶剤もいつも通り、水とホルベイン社ペンチングソルベント。艶消剤に炭酸マグネシュウムを混ぜています。最後にウエザリングとして、パステルをペンチングソルベントで溶いてから塗布しています。

 ベースは木粉粘土で作り、鉄道模型用の小石だの、草だのを付けただけ。
 塗装は、粘土の地肌を生かしたかったので、ウォッシングとパステルで仕上げています。


 雑感としては、メリハリのあるキットだったのと、AFVを作った影響からか、太めの筆を用いてザックリとしたタッチで、アバウトに塗りましたが、下手に細い筆でチマチマと塗った所の方が失敗しています。
 顔はいつも通り塗ったのですが、ヘッドの良さを全く生かし切れていません。残念。リベンジします。眉毛は難しいですね。



戻る