1980年代後半
モスクワ軍管区冬季野外演習における
自動車化射撃部隊中隊長


 TANK社の「Russian Modern tank officer Chechnya 1994-2005」を制作しました。

 初冬のモスクワ軍管区における野外演習で、車両に乗って指揮をとる中隊長(大尉)という設定です・・・が、ほぼキットを素組し、なるべくキットを生かした設定とした為、後付も良いところです。
 初冬としたのは、冬用アフガーンカのジャケットだけを羽織った姿である事からです。モスクワ軍管区としたのは、モスクワ軍管区にあるトゥーラ空挺士官学校の演習場の写真を参考に、土の色を塗ったからだけです。モスクワ軍管区の他の基地が、こんな黄色い土をしているかは知りません。別にアフガニスタンでも良かったのですが・・・。

(写真と文章/赤いお母さん)


・詳細解説(軍装考察を中心に)


 このキットは元々、ロシア兵をモデリングした物ですが、その姿は'80年代後半のソ連兵と共通する物があります。
 商品としては戦車兵のフィギュアと成っているものの、戦車兵を初めとする車両搭乗員は専用特殊被服があるので、あえて戦車兵科とせずに、車両に搭乗して指揮する自動車化射撃兵科の指揮官としました。

 着用している軍装は下記の通りです。
 :冬季ТШ-4戦車帽、82年型夏季野外服、84年型冬季野外服(ジャケットのみ)、セーター、将校用ベルト、88年型編上靴。



 冬季ТШ-4戦車帽:
 ТШ-4は、ヘッドホーンが大きく、パッドが六条付いているタイプ。
 夏季用と冬季用の違いは、内側に毛皮の裏地が在るか無いかの違いだけです。

 '80年代には、その姿を既に見かける様になります。’80年代の写真を見ると、ヘッドホーンが小さくてパッドが四条付いているタイプ(1964年型ТШ-3)と混じって用いられている様子がうかがえます。ソ連が崩壊する頃には、このタイプの物が多く見受けられ、切り替わりが完了しつつあるのでしょうか。
 また色は、黒と保護色(冬季戦車服や冬季スペッツナズ服と同じ黄色っぽいカーキ色)の物があり、黒から保護色へと切り替わっていったものと思われます。’80年代にも保護色の物が写真に写っている事があるものの、第一次チェチェン紛争の頃までは黒の物が多く、第二次チェチェン紛争になると保護色の物が大半を占める様です。

 ТШ-3とはプラグのピンの数が違い、使用する無線機自体が違う様です。プラグコードの取り付け位置も、両タイプで違いがあります。
 プラグコードを無線機につないでいない時の処理は様々在る様ですが、作例では胸のポケットにコードの先を突っ込む例を再現しています。



 82年型夏季野外服
 '89年に出版された1988年服装規定の本から登場した事から、一時期はコレクターからM88などと呼ばれた服。
 ソ連陸軍と海軍歩兵の全ての将兵(除く空挺兵)の統一野外服として導入されました。
 '88年規定から登場したものの、正式採用は'84年、肩章に関する規定は’85年に決定され、仕様に関しては'82年に既に決められています。

 時期などによって、形状・生地に様々なヴァリエーションがあります。当初は保護色の生地で作られましたが、順次、迷彩の生地に切り替えられる事に成っていました。現在も迷彩パターンや生地、形状に若干の変化を付けながら、旧ソ連各国の軍で使用され続けています。
 作例では3303生地で、茶系保護色の物を再現しました。

 この82年型夏季野外服・83年型空挺用夏季野外服(こちらの作例参照)・84年型冬季野外服は、'84年にまとめて採用され、アフガニスタン駐留の将兵に優先的に支給された事から「アフガーンカ」の呼称が付けられました。
 また「マブータ」というニックネームも在った様ですが、現在、コレクターや業者間では、この呼称はスペッツナズ服を指す言葉として使われています。何故そうなったかは分かりませんが。


 84年型冬季野外服ジャケット:
 俗に言う冬用アフガーンカです。
 '84年に仕様が決められ、他のアフガーンカと同時に正式採用されています。

 模型からは分かりませんが、首の後ろ側、毛皮襟の下にポケットがあり、フードがしまわれています。右内側には、保温用のインナーとの間にホルスターが内蔵されています。
 綿入りの保温用インナーは、毛皮襟と一体と成っており、取り外しが出来ます。

 インナーや毛皮襟の素材は用途によって様々です。
 一般将兵はウール混紡のメリヤス裏地のインナーに人工毛皮の襟を用い、寒冷地で勤務する将校と海軍歩兵の将校には同様のインナーと天然毛皮の襟を用いる事に成っていました。とはいえ、余り厳密に運用されてはいない様です。
 空挺用は素材が違い、起毛した羅紗製の保温インナーと天然毛皮の襟を、将兵共に用いる事に成っていました。
 また天然毛皮の保温インナーと襟という製品も存在します。
 ちなみに作例は天然毛皮の襟を再現しました。


 85年の肩章規定改定:
 1985年12月にソ連最高会議幹部会の法令として可決され、翌1986年1月18日から国防大臣命令第10号として、ソ連軍軍人の肩章の修正と追加が布告されました。この改訂は様々な階級や肩章の統廃合、新設が行われましたが、特筆すべき事項としては、アフガーンカ用の肩章が制定された事です。
 アフガーンカ用として導入されたのは、エポレット型肩章と、それに付ける保護色の兵下士官用階級リボン、エポレットに脱着出来る将官用肩章でした。将校・準士官用としては、以前から野外服に用いられた保護色の(鉄製)星が、引き続き用いられました。



保護色の小星(尉官・準士官用)四つで大尉。

 セーター:
 ニット製のタートルネック型が存在します。
 服装規定としては、前述した'88年規定('89年出版)に防寒具の一つとして登場しますが、詳しい形状や着用方法に付いては触れられていません。
 防寒用フェイスマスクや、冬用アフガーンカのインナーの手首部分に使われているニットと同じ、ピンクがかった肌色のニットの物を散見します。また灰色の物も存在するようです。現場では私物の物も用いられたようです。
(下図はモスクワの中央軍事博物館の展示)



 将校用ベルト:
 特に特筆すべき事は在りません。


 88年型編上靴:
 既に別項で触れましたが、この再現で特筆すべきは、着用方法です。
 アフガニスタンなどでは、上までキッチリと紐を編み上げず、足首の途中で紐を結んでしまう事が多かった様です。

 '70年代の設定で作った物(こちら)と並べてみました。
 既に'70年代から改訂が少しずつ行われていたとはいえ、'80年代にソ連/ロシアの一般将兵の姿が変わった事を感じ取れるのではないでしょうか。



模型的解説


 「素晴らしい!・・・しかし完璧ではない」

 TANKのキットはアランゲルのNKVD/コサックや、ズベズダ/イタレリのコサックを作った原型師が制作している為、大変素晴らしいプロポーションとディテールを持っています。軍装の考察も素晴らしいものです。
 ・・・しかしながら完璧ではなく、間違っている部分、物足りない部分もあるのです。以下、修正した部分を列記します。


 戦車帽:
 ・付属の戦車帽のヘッドホーンの位置が上過ぎておかしいので、別売りの物を使用。
 ・無線コードを追加。
 ・フラップの留具のベルトを追加(付属の戦車帽には付いている)。
 ・フラップの留具のバックルの位置を、ヘッドホーンよりにずらして作り直す。


 冬用アフガーンカのジャケット:
 ・腰のカーゴポケットが大きすぎるので小さくする(結果、腕の取り付け位置が変わる)。
 ・保温用インナーのモールドが無いので追加する。
 ・肘当てを楕円形に修正(キットでは菱形)。
 ・袖の縫い目を追加。
 ・背中に夏用アフガーンカと同じプリーツが在るので、これを無くす。
 ・右腰の第三ボタンと第四ボタンとの間に、サイズ調節用の紐を付ける。
 ・戦車帽の無線コードに合わせて、胸ポケットを修正。


 夏用アフガーンカ:
 ・腰のカーゴポケットが無いので追加。


 肩章:
 ・階級章の星を追加。

 将校用ベルト:
 ・無いと寂しいので、自作して追加。


 基本的には素組で、下半身はいじっていません。



・塗装

 いつも通り、水性アクリルカラーのシタデルカラーとヴァレホカラーを用いています。
 最後にパステルでウエザリングを少々。

 今回試したのは、東京フィギュアソサエティで御教授頂いていた炭酸マグネシュウムです。
 炭酸マグネシュウムは歯磨粉の研磨剤や胃薬に用いられている薬剤で、古参モデラーが艶消し剤としてプラカラーに混ぜたと言われる伝説の歯磨粉「ザクト」の研磨剤です。ちなみに当時は缶入り粉歯みがきとして売られていた「ザクト」ですが、現在ではチューブ入り練り歯磨粉として売られており、ライオン社から現在発売されている缶入り粉歯みがきは「ザクト」ではありません。研磨剤も炭酸カルシュウムが用いられています。
 色々な成分(発泡剤だの何だの)が塗料に混ざるのは避けたかったので、薬局で単剤の炭酸マグネシュウムを取り寄せました。580円と値段は少額ですが、最低取り扱い単位が500gと、量は(フィギュア制作には)多いです。


CDケースとの対比。
フィギュア制作には暴力的な量。
一生分と言わず、孫の代まで使えそうだ。

 実際に使ってみた感想としては、大変素晴らしい艶消し剤だと思います。
 シタデルカラーもヴァレホカラーも、希釈して使うと(ペンティングソルベントなどを使うと特に)、どうしても艶が出てしまいがちです。塗料の被膜がなめらかに成るから当然なのですが・・・。後から艶消しスプレーを用いても、劇的には艶は消えません。この問題を解決してくれるのでは無いでしょうか。
 欠点としては、混ぜすぎると白っぽくなる事と、塗料の被膜が弱くなる事です。ほんの一寸添加するだけで充分ですね。初めて使った時は添加しすぎて漆喰の様に・・・。
 アクリルガッシュに近い感じに仕上げる事が出来ると思います。ガッシュよりも艶のコントロールがしやすく、被膜も強いのではないでしょうか。


・ベース

 木粉粘土の上に、ミラコンの粉末をまぶしただけ。
 怠慢モデリングですね。

 飾台は東急ハンズで買ってきたデコパージュ台と角材をくっつけて自作。
 水性ニスを塗っては(紙ヤスリで)研ぎ・・・を数回繰り返す、いつも通りの工程。



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