BT-2

使用キット
1/35 「Russian Fast Tank BT-2」
TOM modellbau(ドイツ)/MAQUETTE(ロシア)




 悪魔的天才科学者クリスティー博士の開発したM1930戦車のソ連版、それがこの快速戦車BT-2である。

 クリスティー博士の開発した戦車は、ストロークの長いスプリングを用いたクリスティー式サスペンションと大型の車輪とにより、不整地を高速で走る事が出来た。その上、履帯を取り外し装輪装甲車としても運用が可能な、魅惑の戦車である。
 T-3戦車として米国軍に作用されたクリスティー博士の戦車であったが、折からの大恐慌の影響で捨て置かれ、失意の博士から戦車をせしめたのはソ連と英国であった。
 砲塔無しのM1930戦車(T-3戦車の試作車)を農業用トラクターとして手に入れたソ連は、それに改良を加え、1932年から33年にかけてBT-2快速戦車として量産に成功する。ソ連で新たに生まれ変わったクリスティー戦車は、その後、BT-5・BT-7と改良を加えられ、現在に続くソ連戦車の礎の一つと成った。

 作例は主砲に「ПС2 1930年型」37mm戦車砲を、副武装に7.62mmデグチャリョーフ機関銃を装備した形式の物。
 この他に、主砲の代わりにデグチャリョーフ機関銃二丁を装備した形式がある。また防盾の形状の違いなど、BT-2の砲塔には細かく言えば、いくつかのヴァリエーションが存在する。
 とはいえ、ここではその話題には触れない。うっかり資料は買ってしまったのだが、ロシア語を読みたくないからである。




・心が揺れる製品情報

 このキットはズベズダのBT-5の車体に、TOM modellbauオリジナルのパーツ(具体的には砲塔と転輪)を加えた物。フルキットというよりは、コンバージョンキットに親切にもベースとなるキットも付けてくれた・・・と思えば、心も揺れないというものである。今回使用したキットは、マケットが再販した製品である。
 キットには砲塔二個分のパーツが入っており、戦車砲搭載型と機銃搭載型の両方とも作る事が出来る様に成っている。素晴らしい。

 ちなみにTOM modellbauとマケットとの製品の違いとして、まずプラスティックの違いが挙げられる。TOM modellbauの物が灰色のなかなかしっかりとしたプラスティックであるのに対して、マケットの物は「チョコチップミントかしら?」と思わせる様ないかがわしいプラスティック製である。箱を開けた瞬間、心が揺らぐであろうが、大丈夫、制作上なんら問題はない。
 また履帯のパーツも、TOM modellbau製が他のパーツと同様の灰色で粘り腰のしっかりとしたプラスティック製であるのに対して、マケットはズベズダ製の「セルロイドかしら?」と思わせるパリパリとしたプラスティックだが、大丈夫、こちらの方が作りやすい(後述)。
 更にTOM modellbauの物にはエッチングパーツが付くが、マケットの物には付いていない。しかし大丈夫。こんなエッチング、女を殴って生きている女衒の時折見せる優しさの様に、何の役にも立たない。ま、フォトエッチングなんて、往々にしてそんな物だが。
 ボックスアートには、TOM modellbauはBT-2の側面図や、詳細が分かる様なイラストを用いている。が、これがまた間違っている。もっとも、素直に箱絵だけを参考に組み立てた方が(素直にドイツ人に騙された方が)、それはそれで幸せであったかも知れない。まるで人生の様だ。

 総括としては、マケットのキットをお勧めする。箱絵も格好いいしね。
 私は両方買いましたけど。
 




・忘れてしまいたい制作の記録

 何故か片面しかモールドされていない転輪のパーツに、モールドを彫り込んでやるのは面倒だなぁ・・・という軽い気持ちでニッパーを入れたのは、いつの事だっただろう。
 砲塔と転輪のパーツが追加されているんだから、BT-5はBT-2の砲塔と転輪を取り替えただけの戦車なんだろうな・・・と素朴に思っていた日々は、もう戻らない。

 TOM modellbauのパーツ自体も、大変に牧歌的な出来ではあるが、ズベズダのキットも(古いとはいえ)素朴な作りをしている部分が多い。ディテールアップを施そうと考えた時に、それなりに手を入れてやる必要が生じる。
 しかも問題はBT-2とBT-5は車体が同じでは無い!という事実である。
 この違う部分を修正してやる作業は、地味であるがそれなりに存在し、しかもディテールアップすればするほど車体が退化して行くというのは、なかなか心が揺れるものである。
 逆説的に言えば、写真や図面を横に手を動かしながら、「どの様にBT-2に改良を施してBT-5が作られたのか」が理解できるのは、大変に勉強になるし、素晴らしい教材である。

 どの部分を修正したのかは、画像を参考の事。
 チマチマと詳細を列記しても仕方がないし、昔の事は忘れました。ただAFV模型初心者の私としては、大変に工作の修行に成ったのは確かです。

 最後に履帯に付いて。ここ重要。
 完成間近、最後の最後で股間を蹴り上げられた様な痛打を浴びたのが、履帯の組み立て。
 いつもの様に、一度組み立ててから車体に巻き付けようとしたのだが、これが出来ない。BT-7の後期型履帯では問題無かったが、一枚一枚の部品が大きな前期型履帯では、接着後に巻き付けようとすると、構造上の問題で結合部で折れてしまう。これはキツイ。
 一瞬、装輪走行時の再現に変更しようかと心が揺れたが、泣く泣くTOM modellbauのキットから履帯のパーツだけ抜き取ってやり直す事にした。これでTOM modellbauのキットを売り飛ばす事が出来なくなってしまった・・・。
 今度は慎重に巻き付けてから接着を・・・と車体に取り付けてやると・・・履帯が長い・・・どうやっても一枚分長い・・・。しかもBT戦車の履帯は二枚で一組なので、一枚抜いてやる事は出来ない。ズベズダ製の履帯パーツは腰は無いが曲がりやすいプラスティックなので、力業で押し込んで接着してやればなんとかなる。しかしTOM modellbau製の履帯パーツは、余計な事に腰はあるが堅くて曲がらないプラスティックである故に、どうやっても納まらない。
 結論。上部履帯を一枚一枚切り離して弛ませた。
 ・・・こんな事ならアベールのエッチングで可動履帯にしてやれば良かったかも・・・。カステンも、フリウルも後期型履帯なんぞ出さずに、前期型履帯こそ出して欲しい物だ。本当に必要なアフターパーツこそが無い・・・というのが世の常である。

 塗装はラッカースプレーでマホガニーを吹き付けた後、水性アクリル塗料でチマチマと筆塗り。最後にパステルと鉛筆でウエザリング。

 模型はやはり勢いで作る物ですね。
 作業を中断して寝かせておくと、塗装を始めてからも気になって追加工作をしたり、塗装自体もやり直したりしてしまい良くありませんな。一年近くかけても煮詰まるどころか、行き詰まるっちゅうものです。

(写真・文章/赤いお母さん)


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