1938年
中央アジア
国境警備隊の旅団コミッサール


 国境警備隊の旅団コミッサール(Бригадный комиссар пограничной охраны НКВД)、中央アジア、1938年。

 このフィギュアの状況設定は、中央アジアなどの亜熱帯性気候の管区で1938年頃に勤務した国境警備隊の旅団コミッサールをイメージしました。1938年と設定したのは、国境警備隊は1937年までは襟や袖に労農赤軍と全く異なる階級章を付けているからであり、かつ1939年には国境警備軍と改称され、さらに1940年には政治委員の襟章に歩兵などの兵科徽章が付加されるようになるからです。

(写真と文章/ワレンチン・ヴェノーフ)


・軍装解説



 設定に基づいて、国境警備隊の旅団コミッサールのフィギュアは、1937年7月15日付のソ連邦内務人民委員部令第275号の中で規定された「亜熱帯性気候を持つ管区のための指揮員および指導員用の夏衣・ズボン・帽子(Летняя куртка,брюки и горовной убор  командного и начальствующего состава для округов с субтропическим  климатом)」に合わせて光沢のある短かめの軟胴の長靴を着用しています。



 帽子は「亜熱帯地方用日除け帽(субтропический шлем または шлем для субтропиков)」と呼ばれるもので、少なくとも1935年までには国境警備隊や国内軍用として制定されており、先に挙げた1937年の内務人民委員部令第275号にも図示されていました。 1938年3月に労農赤軍にも類似した形状の日除け帽が中央アジアやカフカース地方などの「南部管区の(южных округов)」指揮員および指導員用として制定されましたが、これは「パナマ帽(панама)」と呼ばれました。労農赤軍の「パナマ帽」の帽体は一般用の保護色と装甲車・戦車部隊用の鋼鉄色の2種類がありましたが、正面の星はどちらも兵科を示す定色とは関係なく、赤色と規定されていました。一方、国境警備隊用は保護色の帽体に、作例のように、定色の明緑色の星となっていました。また、「亜熱帯用日除け帽」と労農赤軍の「パナマ帽」は通気孔の数は12個と同数でしたが、通気孔の配列が異なっていたようです。作例では1937年の内務人民委員部令第275号の「付図6」に基づいて、正面の4個の通気孔は星の光芒の間に(「ハの字」になるように)配置し、両側面は水平に2個、後部は正方形になるように4個を配置しました。「亜熱帯用日除け帽」には帽体と同生地(多くが「交織コベルコット 436番」と呼ばれるしっかりした綿織物)の頤紐が内部に縫い付けられていましたが、作例では、旅団コミッサールに相応しく、頤紐を中に収納して帽子を被っている状態を再現してみました。


 夏衣は「亜熱帯地方用ジャケット(куртка для субтропиков)」と呼ばれるもので、胸ポケットの付いた指揮員および指導員用は 1937年の連邦内務人民委員部令第275号で出現したと考えられています。正面は4個のボタンで留められ、襟ホックと第1ボタンを外せば、開襟状態で着用できる裁断になっていました。袖口はギムナスチョールカとは異なり、作例のようにボタン留めされたストラップを利用して絞る形式になっていました。ボタンの色は残存している写真から判断すると黒色のようです。生地は保護色で、一般の指揮員用木綿製ギムナスチョールカと同様の「交織コベルコット436番」 などで製作されていたと思われます。

 ズボンは一般の指揮員用の乗馬ズボンと同形の膝当てのないタイプで、付図を見る限り両側部の玉縁はなさそうです。また生地はジャケットとは異なり、「綾織トリコ444番」などが用いられたと思います。作例ではジャケットとズボンの色合いを微妙に変えてみました。


 襟には国境警備隊を示すキイチゴ色の玉縁が施された明緑色の襟章に旅団コミッサールを示す1個の菱形章、両袖には政治委員を示す鎚鎌の意匠を持つ赤星をつけています。
 左胸には中央アジアで長年勤務した旅団コミッサールに相応しい勲章としてロシアソヴィエト社会主義連邦共和国の赤旗勲章を佩用させてみました。勲章の佩用位置は、1932年の規定によれば、1個の場合、ポケット蓋のボタンの上で、勲章の下端がポケット蓋の上端から1センチの間隔をつくって佩用することになっていました。しかし、パレードなどの晴れ着以外では、身体の中心線に若干移動させて佩用している事例が当時の写真には頻繁に登場します。これは、おそらく、「1925・1927年型騎兵用ベルトセット」や「1932年型将校行軍軍装ベルトセット」などの両肩のショルダーストラップが勲章に干渉することを避けるためだったと思われます。

   

 

 

 使用しているキットは、すべて1:35のインジェクションキットで、フィギュアの襟から下部分はMiniArt社の「休息中のソヴィエト戦車兵」の中の一体、顔はアランゲルの「スターリンのコサック兵、1943年」から、帽子はICMの「ソヴィエト・アフガン戦争(1979‐1988):ソヴィエト工兵」のものを利用し、設定に合わせて少しだけ改造しています。改造方法などは以前に投稿した作品を参照してください。

 キットの内包品(ランナーも含む)以外に製作に用いたものは接着剤とプラペーパーとタミヤパテとマスキングテープです。台座はアンドレアのものを用いています。帽章、階級章、勲章、台座の地面はタミヤパテで造形してあります。塗装はフィギュアも地面もすべてアクリルガッシュで行っています。

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